Cover Column 高級車に乗ろうと思う

2004

Cover Column

 
 

 もう相当むかしのことになるけど、ホンダのアコードインスパイアというクルマに乗せてくれるというので、御殿場のとあるホテルへ出掛けたことがある。係の人からキーを受け取ってクルマに乗り込もうとしたときに、エンジニアとおぼしき人がやってきて、いろいろと試乗前のレクチャーをしてくれた。

 4つ、5つ、解説をしてくれたのだが、そのうち2つだけ、今でもよく覚えている。

 曰く、高級なインテリアを実現するために、金色の金属で作ったinspireというロゴをダッシュボードのウッドパネルに埋め込んだのだそうだ。なんでも、プリント文字では顧客の高級志向を満たしきれないのだそうで、なるほど手の込んだつくりになっている。

 曰く、高級な走りを実現するためにエンジンもパワフルで、どんなエンジン回転数からでも速やかによどみなく加速が始まるのだそうだ。パワフルな走りなくして、高級車は語れないと熱弁してくれた。

 ところが試乗は、用意してもらった持ち時間の半分程度で切り上げ、そそくさと帰路についてしまった。そのクルマが考える高級車と、私の思う高級車があまりにも大きくかけ離れすぎていて、ドライブする気分が失せてしまったのである。

 クルマはリズム、だと思う。高級車は与えられた予算の余裕を使って、走って曲がって止まるリズムを高みに登らせることをまず最初に行うべきだと思う。木と革をふんだんに使ったインテリア結構、メッキと高品位な塗装で仕上げたエクステリア結構、パワフルなエンジン結構。ところがそんなもの、なにもなくたって例えばシトロエンのエグザンティアは高級である。運転することの一連の動作に、パッセンジャーとして乗るときのシートの上での揺すぶられ方にリズムがあるから心地よい疲れない、楽しい。パワフルをウリにするなら、そのパワフルさに見合ったリズムで全体を統一しなければ、クルマは疲れる。さらに余裕があれば金でも銀でも使って、装飾すればいい。

 写真はフォルクスワーゲン・パサートW8/4MOTION。素敵な内装でしょ。どこへ乗って出掛けても自慢できそうな内装でしょ。エンジンは3998ccで十分パワフル。ただリズムがよくない。パワフルエンジンの走りなのか、余裕サイズの重厚な触感なのか、素敵な内装そのままのやさしさなのか。食卓にパスタと煮付けと餃子が出てきたような、お母さん迷ったんだろうなといった感じでは、やはり具合が悪い。ひとつひとつはそれぞれ美味でも、おいしくいただけないのではもったいない。

 新型パサートがジュネーブショーで発表された。ゴルフやボーラの4気筒モデルで見せてくれるような素敵なリズムを、高級車のテンポで楽しませてくれるクルマに仕上がっているだろうか。フォルクスワーゲンの高級車に早く乗ってみたい。

copyright / Munehisa Yamaguchi

 

'04 VOLKSWAGEN PASSAT WAGON  W8 4MOTION

Tokyo, Japan

text, photo / Munehisa Yamaguchi

高級車に乗ろうと思う