後藤新太郎さん・上出優之利 写真個展「クルマの達人」
2025/07/18 06:52 Filed in: “書き”のお仕事
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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
東京・銀座で絶賛開催中ですが、《明日(7月19日・土)の午後3時から》、写真家の上出優之利さんが皆さんの前で、展示中の作品を一点ずつ振り返りながら、氏にとっての撮ることについて説いてくれる約1時間のトークショーを開催します。
この席に「クルマの達人」で紹介したクルマの達人も駆けつけてくださり、上出さんといっしょにご自身の仕事についてお話をしてくださいます。詳細はブログの後半にありますので、ぜひ皆さんもいらしてください。
わたしの方でご来場予定を把握している方々、どのような「クルマの達人」なのか、ご来場いただける皆さんにお知らせしておきたく、誌面に掲載した原稿をここで紹介します。
まずは……
後藤新太郎さん
GARAGE GOTO
本当に生きているんじゃないかと
アルファロメオとは、そういうクルマ
ちょうどピストンを加工しているところだった。手製の治具に旧いアルファロメオのピストンを慎重に取り付け、工作機械の刃物を下ろす位置を何度も確かめてから機械のスイッチを押すと、デジタルの表示パネルに赤いゼロが並んだ。そこまで10分ほど。その後、ようやく回した刃物がキリキリという音を立てながらピストンのてっぺんを少しずつ削り始めた。削り落としの深度を示す赤い数字と、刃先とピストンが触れている一点を交互に見比べながらまた10分ほど。機械を止めてピストンを取り出す。手のひらに乗せて光にかざし納得した表情を見せると、それを大切にトレイの上に戻し、次のピストンを手に機械のところへ戻る。
真剣なまなざしと柔和さが混ざった、得も言われぬ終始の表情を見たとき、嗚呼後藤さんの工場を訪ねているのだなあと、こちらまで気持ちが和んだ。
アルファロメオの整備でつとに有名な後藤さんは、町乗りからサーキット走行まで、愛好家の望む施しを彼らの愛車に注ぎ込むメカニックであることはもちろん、工作機械の前に立ち、彼一流の手仕事を施すチューナーでもある。そして、本当に好きなんだなぁと感じるこの表情こそが、多くのファンの心を掴む魅力の真骨頂なのだと確信させる。
「最初は、どうしてもアルファロメオでなければならないというわけではなかったんですよ。クルマに興味を持ち始めた頃は、解体寸前の国産車を安く買ってきて、自分で直して乗ってました。何台もね。きっと直すのが好きだったんだと思います。機械いじりという意味でね。そんな中で、たまたまアルファロメオを所有することになったんです。まだサラリーマンとして働いていた三十代の頃の話です」
初めて手に入れたアルファロメオも例に漏れず、そのまま安心して乗り出せるような状態ではなかった。後藤さんは、それまでの愛車にしたように修理をして整備をして、いくつかのポイントを自分好みに改良して運転を楽しんだ。そのとき、ある感触が後藤さんの感性を射貫いた。
「特に速いクルマではありませんでした。性能を追求したスポーツカーという趣では、ほかにもっと驚くようなクルマがあるだろうというクルマでした。
けれども、なんて心に響くクルマなんだろうと強く感じたんです。なんて楽しいクルマだろうという感覚が、運転操作のすべてから返ってきて、五感が震えるというか、ワクワクする気持ちが止まらない。それなのに、まったく神経質なところがなく、もっと言うとやさしい気配に包まれたままクルマを走らせることができる。少しずつ運転に慣れてくると、もっと上があるよと穏やかに次のステップを教えてくれる。そこへ到達すると、ほら次はここだよとまた教えてくれる。
目からうろこが落ちるような思いでした。こいつは実は生きていて、自分のことを見ているんじゃないかと本気で感じることがあるほど、人間っぽいクルマにやられちゃったんです。アルファロメオに完全にやられちゃったんですよ、僕」
38歳のとき、勤めていた会社を辞め、ガレージゴトウを興した。不要になったプレハブ小屋の材料一式を譲り受け、すでに後藤さんの整備を受けていたクルマ仲間と一緒に建て、四六時中そこでクルマと触れ合う日々が始まった。さっきまでピストンの加工をしていた工作機械がぎっしり並んだ小さな建物が、33年前、後藤さんが第2の人生をスタートさせた空間である。
「あっという間でしたね。もう72歳になりました」
昔よりもずいぶん細身になったことは、少しサイズが大きく見える着慣れたツナギ姿が気づかせてくれた。
「メカニックというのは、体力が必要な仕事ですから。いつまで現場に立てるでしょうかね。部品の加工作業は、まだまだ大丈夫だと思うんですけど」
後藤さんのファンにとっては少しギョッとするようなことを口にした後、息子が少しずつ整備の腕を上げているんだという話をうれしそうにしてくれた。
「いや、大丈夫。まだ引退しないから大丈夫。試してみたいことがまだまだあるんです。もうずいぶんいじくったはずなのに、こういうチューニングをしたらどんな結果が出るんだろうっていう興味が尽きないんです。だから、まだ大丈夫ですよ」
そう言って大きな手で頭を掻きながら魅せる人懐こい笑顔に今日も出逢えた。
工場を後にした帰り道、後藤さんをクルマに例えるなら……などということをふと考え、思わず頬が緩んだ。繊細で技術的な造詣の深さがあって、けれども神経質過ぎることがなく、そして近づいても近づいても次のステージを用意できる奥深さを持っているクルマ。さっき、それはアルファロメオというクルマです、と後藤さん本人が言ったばかりじゃないか!
※2021年6月取材
撮影時の様子を記録した短い動画をFacebookにアップしておきます。
【コチラ】からぜひご覧ください。

【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
19日(土)15時からのトークショーでは、わたしもマイクを持たせていただきます。
【キヤノン公式ホームページ 上出優之利写真展「クルマの達人」】
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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
東京・銀座で絶賛開催中ですが、《明日(7月19日・土)の午後3時から》、写真家の上出優之利さんが皆さんの前で、展示中の作品を一点ずつ振り返りながら、氏にとっての撮ることについて説いてくれる約1時間のトークショーを開催します。
この席に「クルマの達人」で紹介したクルマの達人も駆けつけてくださり、上出さんといっしょにご自身の仕事についてお話をしてくださいます。詳細はブログの後半にありますので、ぜひ皆さんもいらしてください。
わたしの方でご来場予定を把握している方々、どのような「クルマの達人」なのか、ご来場いただける皆さんにお知らせしておきたく、誌面に掲載した原稿をここで紹介します。
まずは……
後藤新太郎さん
GARAGE GOTO
本当に生きているんじゃないかと
アルファロメオとは、そういうクルマ
ちょうどピストンを加工しているところだった。手製の治具に旧いアルファロメオのピストンを慎重に取り付け、工作機械の刃物を下ろす位置を何度も確かめてから機械のスイッチを押すと、デジタルの表示パネルに赤いゼロが並んだ。そこまで10分ほど。その後、ようやく回した刃物がキリキリという音を立てながらピストンのてっぺんを少しずつ削り始めた。削り落としの深度を示す赤い数字と、刃先とピストンが触れている一点を交互に見比べながらまた10分ほど。機械を止めてピストンを取り出す。手のひらに乗せて光にかざし納得した表情を見せると、それを大切にトレイの上に戻し、次のピストンを手に機械のところへ戻る。
真剣なまなざしと柔和さが混ざった、得も言われぬ終始の表情を見たとき、嗚呼後藤さんの工場を訪ねているのだなあと、こちらまで気持ちが和んだ。
アルファロメオの整備でつとに有名な後藤さんは、町乗りからサーキット走行まで、愛好家の望む施しを彼らの愛車に注ぎ込むメカニックであることはもちろん、工作機械の前に立ち、彼一流の手仕事を施すチューナーでもある。そして、本当に好きなんだなぁと感じるこの表情こそが、多くのファンの心を掴む魅力の真骨頂なのだと確信させる。
「最初は、どうしてもアルファロメオでなければならないというわけではなかったんですよ。クルマに興味を持ち始めた頃は、解体寸前の国産車を安く買ってきて、自分で直して乗ってました。何台もね。きっと直すのが好きだったんだと思います。機械いじりという意味でね。そんな中で、たまたまアルファロメオを所有することになったんです。まだサラリーマンとして働いていた三十代の頃の話です」
初めて手に入れたアルファロメオも例に漏れず、そのまま安心して乗り出せるような状態ではなかった。後藤さんは、それまでの愛車にしたように修理をして整備をして、いくつかのポイントを自分好みに改良して運転を楽しんだ。そのとき、ある感触が後藤さんの感性を射貫いた。
「特に速いクルマではありませんでした。性能を追求したスポーツカーという趣では、ほかにもっと驚くようなクルマがあるだろうというクルマでした。
けれども、なんて心に響くクルマなんだろうと強く感じたんです。なんて楽しいクルマだろうという感覚が、運転操作のすべてから返ってきて、五感が震えるというか、ワクワクする気持ちが止まらない。それなのに、まったく神経質なところがなく、もっと言うとやさしい気配に包まれたままクルマを走らせることができる。少しずつ運転に慣れてくると、もっと上があるよと穏やかに次のステップを教えてくれる。そこへ到達すると、ほら次はここだよとまた教えてくれる。
目からうろこが落ちるような思いでした。こいつは実は生きていて、自分のことを見ているんじゃないかと本気で感じることがあるほど、人間っぽいクルマにやられちゃったんです。アルファロメオに完全にやられちゃったんですよ、僕」
38歳のとき、勤めていた会社を辞め、ガレージゴトウを興した。不要になったプレハブ小屋の材料一式を譲り受け、すでに後藤さんの整備を受けていたクルマ仲間と一緒に建て、四六時中そこでクルマと触れ合う日々が始まった。さっきまでピストンの加工をしていた工作機械がぎっしり並んだ小さな建物が、33年前、後藤さんが第2の人生をスタートさせた空間である。
「あっという間でしたね。もう72歳になりました」
昔よりもずいぶん細身になったことは、少しサイズが大きく見える着慣れたツナギ姿が気づかせてくれた。
「メカニックというのは、体力が必要な仕事ですから。いつまで現場に立てるでしょうかね。部品の加工作業は、まだまだ大丈夫だと思うんですけど」
後藤さんのファンにとっては少しギョッとするようなことを口にした後、息子が少しずつ整備の腕を上げているんだという話をうれしそうにしてくれた。
「いや、大丈夫。まだ引退しないから大丈夫。試してみたいことがまだまだあるんです。もうずいぶんいじくったはずなのに、こういうチューニングをしたらどんな結果が出るんだろうっていう興味が尽きないんです。だから、まだ大丈夫ですよ」
そう言って大きな手で頭を掻きながら魅せる人懐こい笑顔に今日も出逢えた。
工場を後にした帰り道、後藤さんをクルマに例えるなら……などということをふと考え、思わず頬が緩んだ。繊細で技術的な造詣の深さがあって、けれども神経質過ぎることがなく、そして近づいても近づいても次のステージを用意できる奥深さを持っているクルマ。さっき、それはアルファロメオというクルマです、と後藤さん本人が言ったばかりじゃないか!
※2021年6月取材
撮影時の様子を記録した短い動画をFacebookにアップしておきます。
【コチラ】からぜひご覧ください。

【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
- ★7月15日(火)~26日(土) キヤノンギャラリー銀座
19日(土)15時からのトークショーでは、わたしもマイクを持たせていただきます。
【キヤノン公式ホームページ 上出優之利写真展「クルマの達人」】
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