yamaguchi munehisa com

大好きなクルマと大好きな音楽と。

September 2023

音楽は、心に響くもの。






“yamaguchi speaker system”の取り
付けとセットアップについてわたしが
100%監修するI.Y.A.ガレージでの記
念すべき最初の作品が、オーナー氏の
元に帰ってゆきました。

2023年9月12日のこの記念すべき出来
事について、facebookで簡単に紹介し
ました。それを読んだオーナー氏から
メールが届きました。


曰く、遠慮せずに書いてくれてよい、
という内容でした。一部紹介します。

『一部濁してありました部分、いつか
また私の記事を書くことがあれば、山
口さんの感じた事全て書いて下さい。

私の障害でも音楽を楽しめる魔法のシ
ステム、もっと広がったら良いのにと
考えておりました。

聴力の障害を持った方々に、少しでも
参考にしていただきたいのです。

音楽を楽しめない方々に1人でも多く
このシステムを認知し、導入されます
ように……』



LP


オーナー氏は、聴神経腫瘍摘出手術の
影響で、右耳の聴覚を5年前にほぼ完
全に失いました。それまでDJとして活
動するほど、つまり音楽を演出し、届
ける側に立つくらいに音楽と共にあっ
た生活は、突然失われてしまいました。

「失われたというより、全く変わって
しまった自身の感覚の変化に自ら失望
し恐れを感じ、自分から音楽を遠ざけ
てしまっていたのだと思う……」と初
対面のわたしに話してくれたのは、1
年半ほど前のロードスタージャンボリ
ーでのことでした。


その時のことは、以下のブログの後半
に書きました。読んでみてください。

【2022ロードスタージャンボリー】


先日ガレージで初めてお会いした奥さ
まが「姿が見えないと思ったら泣きな
がら戻ってきたのでどうしたのかと
思ったら、絶対にあれを自分のロード
スターに付けるんだって。何のことか
と思ったのは、これのことだったので
すね」と、過日のジャンボリー会場で
のことを教えてくださいました。



ジャンボリー会場での出会いから1年
半経った先日、自分のロードスターで
響く“あの時”の音楽と初めて対面した
ときの彼の様子です。


【2023.9.12. NAロードスター】



“あの時”とは、1年半前にジャンボ
リーの会場で試聴した音のこと……と
いう意味だけではありません。

1年半前に彼は、自然に溢れ落ちた涙
の理由をこう話してくださいました。

「片耳の聴覚を失って以来、どのよう
な環境で音楽を聞いても、以前のよう
に聴こえないということばかり気に
なって音楽がまったく楽しくなく、そ
れどころが辛さが湧いてくるような気
持ちになるので音楽を避けてきまし
た。ところが、このクルマで聴いた音
楽の響きには、音楽をまた楽しみたい
という気持ちにさせてくれる何かがあ
りました。聴覚を失う前の“あの時”
のように、また音楽が楽しめるような
気がします」



彼のブルーのロードスターでの試聴が
終わってから、人間の脳の不思議につ
いて二人で少し話しました。そして帰
宅後、一人でじっくり考えてみました。


片側の聴覚しか存在しない状況下で、
ステレオの、つまり左右の広がりの中
における音粒の位置関係が浮かび上が
るような音像体験をすることは、不可
能です。けれども彼は試聴の最中、か
つてDJとしてよく掛けていた楽曲の中
に、広がりのある音像を見ているかの
ような仕草をたびたびしていました。
そして楽曲のキメになるようなフレー
ズの音表情に、とても興奮しているよ
うでした。

二人で話したときに一致した一つの仮
説は、音楽を聞くことで脳内に記憶さ
れた既知の体験を読み出して、その記
憶を脳がリアルな現体験=聴覚として
意識させているのではないか、という
ものでした。

そして、これまでどのような環境で音
楽を聞いても実現しなかったその
”読み出し”が、ロードスターの中にわ
たしが創った音楽環境に身を置いた瞬
間に可能になった、といううれしい事
実でした。


わたしは脳神経の専門家ではないの
で、これ以上のことは語れませんし、
なぜわたしが創ったこのシステムで、
彼がそれまで経験できなかったような
体験が適ったのかについても正しくは
わかりません。

けれども彼の涙の意味が、失ってしま
ったと思っていた“あの時”の自分が
今もまだ自分と共にある……というこ
との発見と素直な感激にあったのだろ
うなと、そう感じています。

機能の一部を失調してもなお、音楽の
感激にむせぶことができるのだと教え
ていただきました。そして、そのよう
な体験を実現する一助になれたことを
素直に喜んでいます。




周波数特性であるとか、原音再生能力
であるとか、結果的にそのような指標
を考慮することがあったにせよ、そん
な事々よりも、グッとくるヤツ、とか、
自然に歌いだしたり体が動いたりする
感じ、とか、涙が止まらなくなるよう
な抑揚、とか、そういう事々に断然こ
だわってきたことに大きな勇気をいた
だけたような、今回の出来事です。

音楽は、心に響くものなのですね。





一生手放さないとおっしゃっていた
NAロードスター、どうぞこれからも
楽しまれてください。



************************************************