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大好きなクルマと大好きな音楽と。



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09 Mercedes-BenzSLR McLaren Roarster
Shibaura, Tokyo, Japan
text / Munehisa Yamaguchi
photo / Rei Hashimoto
   
伝えるべき、夢の言葉

心、静かに思いを馳せる。クルマとは一体なんだろう。銀色の猛々しいこのクルマをひととき駐めて、ゆっくり眺めながら思う。

時間と距離と空間を、自分のためだけに占有すること。123年前のある日、カール・ベンツは、永遠の夢に過ぎないと思われていたその自由を現実のものにしてみせた。ガソリンエンジンを背中に載せた小さな三輪自動車が、人の行動範囲を大きく拡げ、想像力を果てしなく豊かにし、人生に新しい夢を与えてくれた。クルマとは、夢そのものなのだ。


まだエンジンルームからかげろうが昇るメルセデス・ベンツSLR マクラーレンロードスター。紛う事なき、これが人類が123年目に到達した最先端のクルマの姿である。世界の頂点で研究に勤しむ自動車エンジニアの視線の先端が描く、これが本当の姿なのである。626馬力のエンジンやカーボン素材で出来たボディ、あるいは跳ね上がるドアが印象的なデザインといった個々の技術が最先端である、というような短絡的な話ではない。それはあたかも、カール・ベンツの創造したあの3輪自動車が、ガソリンエンジンの驚きを披露するための台車であろうはずがなかったのと同義である。


このクルマが指し示す未来に、どんな表情の新しい日々が拡がっているのか。それは、かつて三輪自動車を前にした誰もが、今日の自動車文化を想像できなかったのと同じく、言い当てることは不可能だ。けれども誕生したばかりの最先端の技術に彼らが託した夢や思いは、百余年の時を越え引き継がれ、当時を知らない我々の前でもキラキラと神々しい。


今、次の100年に引き継ぐ夢のかたちが目の前にある。この運転席で夢人が語る100年分の夢の言葉は、時を越えて未来へ運ばれる。


メルセデス・ベンツSLR マクラーレンロードスター、選ばれし夢人のためのタイムマシン。会うことのない未来の誰かに、我らの世代の夢を伝えるための素敵な預かりもの。


2009 copyright / Munehisa Yamaguchi
text / Honor Times "Times 24" 2009 Vol.1 掲載