'09 ASTON MARTIN DB9
Yokohama, Japan
text, photo / Munehisa Yamaguchi
"DEAN BRITTAN"の夢
子どもの頃の話を、聞かせてほしい。そう、僕の知らない、あなたの子どもの頃の話。やんちゃだったとか泣き虫だったとか、そういう話からでもいい。それはきっと今のあなたを確かにかたち作っていることだと思うから。でも、もう少し深い話ができる仲になったら、夢の話も聞かせてほしい。僕らの世代だと、男の子は電車の運転手さん、女の子は看護婦さんって子が多かったよ。お嫁さんになりたいって女の子は多かったけど、お婿さんになりたいって男はいなかったなぁ。
僕は何になりたかったんだろう。やっぱりお婿さんになりたいとは思ってなかったけど、でも、もう覚えてないや。だって変わっていくもんね。夢って、変わっていくんだ。
時はうつろうなんて台詞は、言い訳としてはちょっとずるいと思うけど、でも、弱い弱い僕らの心を守ってくれるやさしい言葉でもあるよね。その時その時、少し歩を休めて振り返って、もし立ち止まったその場所が、過去に思い描いていたままの目的地じゃなかったとしても、残してきた足跡がしっかりとした轍(わだち)を刻んでいれば、それでいいんだと思えるもんね。そういう時は、時のうつろいっていう言葉は、本当にやさしい。仕方なかったじゃん、って逃げ込めるすき間に身を休めることが、人生には必要なんだ。みんなそうやって今に辿りついてきたし、きっと未来に向かって歩いていく勇気の種になっているんだと思う。
でもね、みっともない姿をさらけ出すことも気に留めないほどがむしゃらになってしがみついて、それでも仕方なかったというのと、最初からあきらめてなにもしないまま流れ着いてしまうのは、違うと思う。
その時その時、振り返るたびにちっとも思い描いたとおりになってなかったとしても、それでも夢を持ち続けることは大切だと思うんだ。
どうしてだろう。
それが達成できたときの充実感は確かに他に代えがたいものだけど、でも、それが夢の意味だとは思わない。もっと、今、その瞬間にとって大切なことのような気がするんだ。次の一歩を、どちらに踏み出せばいいのかが分からなくなったら、猛烈に不安になるよね。だから、歩みを進めるべき方向が見えてるってことは、とっても心安らぐこと。それが、夢。まるで、一条の光が洩れるすき間に向かって吸い込まれていくようなその様は、夢の中へ逃げ込んでいるようにも見えるけど、それが人の宿命なんだね。そうでないと生きてゆけない。明日の心配事で足がすくんでしまうのって、もっとも人間らしいことだから。僕には分かるよ。
DEAN BRITTAINの夢は、何だったんだろう。世界中の愛車家が心焦がすアストンマーティンの12気筒エンジンに、自分の名前を記すことが彼の夢だったんだろうか。これが彼の思い描いたとおりの目的地だったんだろうか。僕はDEANに会ったことがないから、めったなことは言わない方がいいと思うけど、アストンマーティンのフラッグシップモデルのエンジンに名前を記すことができるという、この素晴らしい仕事は、でも彼の夢の終着点なんだろうだとは思わない。抱き続けるもっと大きな夢への通過点。そこがひとまず望みどおりの通過点だとしても、そこが本人の想定から少しずれているのだとしても、きっともう次の一歩を踏み出すべき光の洩れ指す方向を見つけて歩き始めているに違いないと思うんだ。そういう彼だからこそ、今ここに彼の名前が記されているんじゃないのか、と。
「ねぇ、知ってるかい。David Brownと僕は同じイニシャルなんだぜ」と仲間にうそぶきながら、オイルの匂いで満たされたファクトリーで働くDEAN BRITTAINは、次にどこにサインを記すのだろう。
夢が未来を築いてくれる。素敵なことを実現させる大切な糧なんだね。
※ David Brown=超高級車メーカー・アストンマーティン社の経営権を所有していた英国人実業家。同社の車名に冠されるDBの文字は、彼のイニシャルにちなんだもの。
僕は何になりたかったんだろう。やっぱりお婿さんになりたいとは思ってなかったけど、でも、もう覚えてないや。だって変わっていくもんね。夢って、変わっていくんだ。
時はうつろうなんて台詞は、言い訳としてはちょっとずるいと思うけど、でも、弱い弱い僕らの心を守ってくれるやさしい言葉でもあるよね。その時その時、少し歩を休めて振り返って、もし立ち止まったその場所が、過去に思い描いていたままの目的地じゃなかったとしても、残してきた足跡がしっかりとした轍(わだち)を刻んでいれば、それでいいんだと思えるもんね。そういう時は、時のうつろいっていう言葉は、本当にやさしい。仕方なかったじゃん、って逃げ込めるすき間に身を休めることが、人生には必要なんだ。みんなそうやって今に辿りついてきたし、きっと未来に向かって歩いていく勇気の種になっているんだと思う。
でもね、みっともない姿をさらけ出すことも気に留めないほどがむしゃらになってしがみついて、それでも仕方なかったというのと、最初からあきらめてなにもしないまま流れ着いてしまうのは、違うと思う。
その時その時、振り返るたびにちっとも思い描いたとおりになってなかったとしても、それでも夢を持ち続けることは大切だと思うんだ。
どうしてだろう。
それが達成できたときの充実感は確かに他に代えがたいものだけど、でも、それが夢の意味だとは思わない。もっと、今、その瞬間にとって大切なことのような気がするんだ。次の一歩を、どちらに踏み出せばいいのかが分からなくなったら、猛烈に不安になるよね。だから、歩みを進めるべき方向が見えてるってことは、とっても心安らぐこと。それが、夢。まるで、一条の光が洩れるすき間に向かって吸い込まれていくようなその様は、夢の中へ逃げ込んでいるようにも見えるけど、それが人の宿命なんだね。そうでないと生きてゆけない。明日の心配事で足がすくんでしまうのって、もっとも人間らしいことだから。僕には分かるよ。
DEAN BRITTAINの夢は、何だったんだろう。世界中の愛車家が心焦がすアストンマーティンの12気筒エンジンに、自分の名前を記すことが彼の夢だったんだろうか。これが彼の思い描いたとおりの目的地だったんだろうか。僕はDEANに会ったことがないから、めったなことは言わない方がいいと思うけど、アストンマーティンのフラッグシップモデルのエンジンに名前を記すことができるという、この素晴らしい仕事は、でも彼の夢の終着点なんだろうだとは思わない。抱き続けるもっと大きな夢への通過点。そこがひとまず望みどおりの通過点だとしても、そこが本人の想定から少しずれているのだとしても、きっともう次の一歩を踏み出すべき光の洩れ指す方向を見つけて歩き始めているに違いないと思うんだ。そういう彼だからこそ、今ここに彼の名前が記されているんじゃないのか、と。
「ねぇ、知ってるかい。David Brownと僕は同じイニシャルなんだぜ」と仲間にうそぶきながら、オイルの匂いで満たされたファクトリーで働くDEAN BRITTAINは、次にどこにサインを記すのだろう。
夢が未来を築いてくれる。素敵なことを実現させる大切な糧なんだね。
※ David Brown=超高級車メーカー・アストンマーティン社の経営権を所有していた英国人実業家。同社の車名に冠されるDBの文字は、彼のイニシャルにちなんだもの。
2010 copyright / Munehisa Yamaguchi