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大好きなクルマと大好きな音楽と。

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 昨年の11月、SEMA SHOWの会場を歩いてた。
 SEMA SHOWというのは、自動車の主にアフターマーケットに関するあらゆるビジネスを対象とした事業者向けの見本市で、アメリカはラスベガスの広大な会場で毎年開催されている。
 世界のトレンドを占うカスタムカーに群がる人々の熱気はもちろんとんでもなく熱いのだけど、日本で開催される同じようなイベントではあまり感じられないある雰囲気が、やはり今回も熱かった。
 その熱い雰囲気を全身に浴びてるうちに、そうだ、日本に帰ったら三村さんに会いに行こうと、思った。

 1ヶ月後、奥の方から工具が動く音が聞こえてくる工房の入り口に立っていた。中に入ってゆくことはせずに外で待っていたら、しばらくして三村さんが表へ出てきた。たった2年しか経っていないのに、前に会ったときよりずっと創作家の風情が強くなったように感じた。なぜだろう。
「自分のやるべきことが、とても整理されてきたような気がします。自分にしかできないことがあって、でもそれを前面に押し出すだけでは理解してもらえないということもわかっていて、じゃあどうすればいいのかという答えが、すごく見えてきたような気がするんです」
 少し興奮気味にそう切り出した言葉の続き、実は創ってゆきたい作品の内容については、2年前に話してくれた夢やアイデアと何も変わっていなかった。けれども、やらないことについては、思いっきり明確になっていた。
「仕事ですから、それでお金を稼いで生きてゆかなければならないじゃないですか。そうすると、どうしても得意なんだからやってよと頼まれた仕事を断れない自分がいたんです。もちろん今でも、完全に切り分けられたわけではないです。そこまで、自分が理想だと考えるバランスには到達できていないです。けれども、もっともっと自分らしさが濃い自分になるために、いろいろと整理がついてきたようには感じるんです」
 黒く塗られた壁とファンスに囲まれた秘密基地のような空間には、あらゆる技法で描かれた絵や立体物の作品が並んでいる。例えばスプレーガンで描かれた画も、素晴らしい出来栄えでそこに並んでいる。
「あぁ、エアブラシアートの画ですね。もちろん、仕事としてのクオリティは十分以上にクリアしていると思います。でもあれって、エアブラシアートを勉強した人なら誰でも描けるんですよ、技法的には。だから、用意された写真を元にそれをブラシアートで描く、という作業は、自分じゃなくてもできるわけです。そういうものを自分の作品の中から排除してゆこうという流れが、かなり進んだ気がします」

 近しい間柄の中で、そのうち活躍の舞台を海外に移してしまうだろうな、と直感する人が2人いる。三村さんは、そのうちの一人だ。
 SEMA SHOWで今年も感じた雰囲気の中に、三村さんを置いてみたいと話した。ある作品に感銘を受けたとき、こういう創造ができる人物は誰だろう、そういう人物が籍を置いて力を発揮してもらえるこの企業はラッキーだ、という風に発想する雰囲気がSEMA SHOWの会場には満ちている。だから、組織よりも、個人へのリスペクトが当然のように先に立つアメリカのあの会場で、思い存分 "我こそは!”と叫びながら、作品を紹介する三村さんが見てみたいのだと話してみた。
「前にも話したと思うんですけど、僕の仕事はあくまで代行屋です。それは、夢を叶えるということをピンストライプや立体の造形で実現することはできるんですが、そもそもそれがどういう夢なのかは、お客さんの心のなかにあるものだからです。言葉にしにくいその夢を聞き出して、そのイメージに自分なりの工夫を加えて、そして出来上がりを見た瞬間に満面の笑顔がこぼれるるために必要なことすべてが、僕の仕事だというスタンスは変わっていません。
 日本でも、僕のそういうスタイルを理解してくれて、楽しんでくれたり応援してくれたりする人には、とても恵まれていると感じています。でも、もしそういう感激の輪が海を超えることができれば最高ですね! 実は、以前からすごく興味があるんです、SEMA SHOW。来年、ぜひ一緒に行きましょう」
 そうですね、三村さん。来年は、とりあえず様子を見に行きましょう。そして再来年はウォッチャーではなく、パフォーマーとしてラスベガスの会場に立ってください。
 じゃあ、行きますか! と言ったら、まず英語を勉強しなくちゃですね、と笑っていた。大丈夫、自らの魂の表現を両手で掲げたときのその熱い眼差しがあれば、きっと世界中どこでも日本語で通用します。


GRAND ARTS       
アーティスト 三村英之


写真:上出 優之利