クルマの達人 鈴木商会/鈴木三男さん
クルマの達人 鈴木商会/鈴木三男さん
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クルマの達人
クルマの達人
どんなクルマでも
価値は変わらないよ
以前、自動車のスクラップ工場を見学した時に、涙が出そうになった覚えがある。目の前で重機に引き裂かれていくそのクルマは、もちろんどこの誰が所有していたものなのか知る由もないのだが、時々、キュゥとかクゥゥとかきしみ声をあげながら、解体場の床の上を引きずり回され、最後はまるで卵の包装パックを手のひらで握りつぶすような音を立てながらプレス機で押し潰されていく。目の前で、まだら模様の小さな鉄の塊になってしまったこのクルマも、かつてはワクワクしながら待つオーナーの元へと納車され、いろんな道をいろんな思い出を残しながら走ったんだろうなと思うと、そのあまりに無残な終着点に、胸元がぐらぐらと揺らぐような切ない気持ちになっていくのを禁じ得なかった。
鈴木商会を訪ねた。あのとき十把一に押し潰されていったような部品、例えばバンパーとかボンネットとかフェンダーとか、そういうものがずらりと棚に並べられていた。
「クルマがバラバラになっていくの、かわいそうだなって思うことあるよ。昔は時にそうだったね。仕事だから、そうも言ってられないけどね」
解体の場面に遭遇した時の話をしたら、鈴木さん、そう答えてくれた。
でも、これは私の見た解体とは違う。再利用できるようにドアを外し、ライトを取り、シートを降ろす。それが鈴木さんの言うところの解体。それでもかわいそうだと、そういうことなのである。
「いいクルマも大したことないクルマも、部品の価値は同じですよ。ベンツ乗ってる人もカローラ乗ってる人も、大切にしてるんだっていう気持ちがあればクルマの価値は変わらないでしょ。ただ、高いか安いかだけ。
例えば高校卒業したばかりで、バイトで貯めたお金で手に入れたAE86乗ってるような男の子が、欠品だっていう部品探しに来ることもあるのね。細かいもので、商売だけで考えればいくらにもならないような部品なんだけど、その子はもう必死なんだよね。
僕は喜んで探してあげますよ。中古の部品だから、すぐにっていうのは無理かもしれないけど、見つかったら連絡してあげるねって。ウチには面倒くさいっていうのは、ないから。そういうのやってあげて、喜んでる顔が見たいもん」
奥からノートを持ってきて、見せてくれた。びっしりと見つけて欲しいと頼まれた部品のリストが書き込まれたノート。
「1個売って何万円も儲かる部品だけやればいいじゃない、って言われるんだけどね。 なんか、そういうのじゃないんだよなぁ。その代わり、やっと見つかったよって連絡したら、もういらねぇなんて言われると頭きちゃうけどさ。金取るんだから商売じゃないか、って言う人がいるかもしれないけど、ねじ1本みたいな部品を必死になって探すわけだから、そういう部品に関してはほとんど商売抜きなんだよね。あったあった、って喜んで電話して、そんなこと言われたらがっかりしちゃうでしょ。
それが仕事だと言われれば、そうなのかもしれないけど、人間同士の関係ってそういうことじゃないよね。そのクルマが好きなんだね、大切にしてるんだねって思える同士だなって感じるところから始まるから、よけいにそう思うのかもしれないけどね」
小さな部品でも
取っておくのが習慣
鈴木商会は、私のようなクルマばかにとっては宝の山である。
「そんなの捨てちゃえよ、って若い連中からは言われるんだけど、なんでも取っておいちゃう。
昔はね、クルマの新品部品がなかなか手に入らなかったから、新品部品が届くまでの間、修理中のクルマをとりあえず動くようにしてお客さんに返せるように、っていうことで中古部品が重宝されたわけ。外車の部品は注文してから船で持ってくるようなことだし、国産部品だって流通が相当悪かったからね。だからその頃は、ねじ1本までなんでも売れたもんだよ。今は新品の半額くらいまでで買える安さとか、メーカー欠品してるからという理由で中古部品を利用する人が多いから、似たような部品ばかりに注文が集中する傾向はあるね。
別の場所に広いクルマの置き場があって、細かい部品のときはそれだけ外して持ってくるんだけど、エンジンとかミッションみたいな大きな部品が出た時は、解体するわけ。そのときに、ねじから電球までなんでも取っておいちゃうんだよ。昔からの習慣みたいなもんだね」
倉庫にはヘッドライトやガラス類などはもちろん、ドアモールやオーナメント、電気回路の小さなリレーまでごっそり。話をしながら外に出ると、外装用の大きな部品がずらり。うず高く積み上げられた樹脂パーツの下から、ロールスロイスがひょっこり顔を覗かせていた。これから潰されてしまう運命を憂えていたいつか解体場で見かけたクルマとは、まったく違う表情。キラリと光るメッキの輝きが、次の活躍の場所が早く見つかることを楽しみにしているようにすら見えた。その横で笑う白いつなぎの鈴木さん。ますますクルマが好きになった。
copyright / Munehisa Yamaguchi
Car Sensor 2004 Vol.35掲載
「探してた部品が見つかった時の
嬉しそうな顔、すごくいいね」
解体車から宝の山を生み出す達人
鈴木商会/鈴木三男さん
メカニックになりたくて就職した修理工場で部品部に配属されたのが
クルマの部品に興味を持ったきっかけ。24歳の時に独立して部品商を始めるも、当初は仕入れの資金を捻出するのにも苦労したという。三十代半ばになって、部品取り用の廃車を自ら解体できる資金と場所を確保。現在は、輸入車中古パーツ販売の老舗的存在の62歳。
※年齢等は、"CarSensor"誌に掲載時のものです。 2004 Vol.35掲載
Ph. Rei Hashimoto