クルマの達人 KKMカーオーディオファクトリー/金成修史さん
クルマの達人 KKMカーオーディオファクトリー/金成修史さん
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クルマの達人
クルマの達人
原音再生なんて
オーディオじゃ無理だよ
趣味とは何でも奥深いものだと思う。特に、自らの趣向を満たすために無理難題を形にしていく過程が必要とされたり、完璧に限りなく近づくことは出来ても、永遠に完成することのないことを趣味に持ってしまうと、これはもう天国と地獄の両方に足を突っ込んでしまったようなものだ。ハマってしまうというのは、このような状況に陥っている様子を言うのだろう。
「原音再生なんて、無理ですよ。ホームオーディオでもカーオーディオでも、これがリファレンス・サウンドだとかよく言ってるでしょ。まさに原音そのままって。でもね、スピーカーからバイオリンの音は出ないんです。人の声もサックスの響きもドラムの打音も出るわけないんです。バイオリンはあのサイズの乾ききった木のボディが共鳴している音が本当の音でしょ。声だってサックスだってドラムだって、それぞれの大きさや形、材質に固有の特徴があるから、色々な音がするんです。それを全部ひっくるめて十数cmのスピーカーで再現なんて出来るわけないじゃないですか。あくまでもそれふうの音が聞こえてくるだけなんだ、ってことを最初に認識することがとても大切なんですよ」
カーオーディオのサウンドチューニングを行う金成さんに言わせれば、原音を追求するオーディオとは永遠に完成することのない趣味。端から不可能だと分かっていながら、果敢に涙ぐましい努力を積み重ねる行い、そのものだと言うのである。
「無理を承知で如何に原音に近づけるかっていうトライアルも、もちろん否定しませんよ。でもね、どうせ無理なのが分かっているなら、どれだけ自分が心地よい音にするか、っていう方向に発想を変えてもいいと思うんです。オーディオを通して聞くのは音楽でしょ。最高に気持ちよく音楽が聴ければ、それが一番じゃないですか。僕の仕事で難しい部分があるとすれば、お客さんごとの音の好みを正確に認識することですね。こればっかりは、本当に難しい」
まずデモカーの音を聞いてもらって、その感想を元にお客さんの趣向を見極めるのだという。なるほど、本当に難しそうなやりとりだ。
売り物は機材じゃない
音を売ってるんだ
元々ホームオーディオにかなり凝っていた金成さん。カーオーディオにハマるきっかけになったのは、愛車のオーディオを新調しようと東京の電気街、秋葉原に出向いたときのことだった。金成さんは、そこでハードウェア、特にスピーカーのレベルの低さと、まとまな取り付けをしてくれるお店がないことに大いに失望したのだという。
「それまではカーオーディオの知識なんて、ほとんどなくてね。色々探し回ったんだけど、何もかも、なんだコレ?、っていうレベルだったんです。結局ホームオーディオ用のスピーカーをボックスに組んで、リアゲートにセットしました。その他にもホームオーディオでは常識的なノウハウを総動員して、自分なりになんとか完成させたんです」
金成さんは仕事が終わってから、自分のシステムを組んだセリカで、カーオーディオを扱ってるお店を毎日回った。
専門店がどういう評価をするのか、何故こういうキチンとした取り付けをして、いい音を追求しないのか、どうしても知りたかった。
「でも、理解してくれるお店はほとんどなかったですね。ここまでやるお客はいないよとか、こんなに大きなスピーカーボックス積んでどうすんの? とかね。
それじゃあオレがやるよ、って思うようになるのに時間はかからなかったね。きっと自分みたいなのがいて需要があるはずだから、仕事としても成立するに違いないって確信したわけ」
金成さんは、臨床試験技師という安定した仕事を辞め、KKMカーオーディオファクトリーを興すことになった。リアスペースに専用のスピーカーボックスを組み付けて、より量感のある音を再生するという方法の実用新案も金成さんがその頃に申請したものだ。口コミを中心に次々とクルマが持ち込まれ、何十、何百というクルマのカーオーディオをセットアップした。
「何台やっても難しいもんですよ。同じ車種でも、毎回毎回、もっとビシッとお客さんの好み通りのいい音にならないかって挑戦してる感じですね。だから取り付けの型紙とかも、あえて取り置かないことにしてるんです。型紙を作った時点の経験で生み出されたノウハウで止まっちゃうのがイヤなんですね。その時の最新のノウハウを活かしたいじゃないですか」
機材を指定してくるお客さんも苦手なのだという。
「山のようにカタログ持ってね、この機械とあの機械を組み合わせたいって来るわけですよ。いいですよ、ウチも商売だから品物が売れるのはありがたいことです。でも、音は保証しないからね、って最初に言っておきます。ウチは音を売ってるんで、機材屋じゃないんだから。機材の組み合わせの妙ってのも、ノウハウなんですよ。高ければいいってもんじゃないんです。まず音の好みを念入りに確認して、予算を決める。後は基本的に任せてほしいんです。プロだなって、納得される仕事をしますよ」
誰かにものごとを任せることに不安がある人は、どんなにオーディオが好きでも金成さんに会う必要はないだろう。ただし、それは金成さんのプロデュースする音に巡り会う機会も絶ってしまうことを意味する。機材を勧めてくれる店がいいのか、音を見極めてくれる店がいいのか、あなたに必要なのは、どちら?
copyright / Munehisa Yamaguchi
Car Sensor 200 Vol.19掲載
「オーディオ機器を揃えるだけじゃ
音楽を聴ける音には絶対ならないよ」
カーオーディオの音づくりの達人
KKMカーオーディオファクトリー/金成修史さん
学生の頃からホームオーディオに凝りまくり、音の理論から実際の音づくりのノウハウまで、その頃に覚えたという金成さん。
臨床試験技師として勤めていたころカーオーデォオに目覚め、仕事を辞めてKKMカーオーディオファクトリーを興す。高価なオーディオ機器をたくさん売りたいのではなく、いい音づくりをしたい、というポリシーは今でも変わっていない。
※年齢等は、"CarSensor"誌に掲載時のものです。 2001 Vol.19掲載
Ph. Rei Hashimoto