クルマの達人 中井 啓さん

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カッコいいクルマは

速く走らなきゃダメ

 男のものさしの話をしよう。下ネタではない。自分の考えや行動を決めていくときに、無意識にあてがうスケールの刻み。価値観というか、そういうものを誰もが持っている。そういう話をしてみたくなった。

「なんていうかね、カッコよくなきゃダメだと思うんだ。こういう言い方をすると、すごく誤解されやすいんだけど、いい服着て、おしゃれなところに遊びにいって、大して興味もないものにバンバンお金使ってとか、そういうことじゃなくてね。自分が好きなことにハマって、突進してる姿かなぁ。ま、誤解されても関係ないんだけどね」

 最初に中井さんのところを訪ねたのは夜。かなり遅い時間だったと思う。不案内な道を迷いながらやっとの思いでたどり着いたころには、もう辺りが暗くなってから何時間も経っていた。

「作業するのは夜だから、構わないですよ。昼間だと、どうも気が散っちゃって。朝方までやって帰って寝るパターンだね」

 どうりで作業場には、そんな中井さんの勝手を知った人たちが、ぽつりぽつりと姿を現す。大好きなクルマの話から始まって、他愛もないゴシップ、そして海外への憧れや、各人の生き様に至るまで話は尽きない。コーヒーすする傍らにはポルシェ。

「今はポルシェ。それも最新のやつを撫で回すように愛撫してるんじゃなくて、ちょっと古い911をカッコよくモディファイして、めいっぱい速く走れるように仕上げるの。いわゆるビッグバンパーっていうモデルね。もう国産車みたいな値段で買えるでしょ。それなら誰にでも手に入れられる。オレ、スーパーカーブーム世代だからさ、猛烈に憧れてたクルマなんだよね、ポルシェ。でも、物心ついて六本木とかにも遊びに行くようになった頃に、あちこちに路駐されてるポルシェ見て、どうしてこんな使い方しか出来ないんだ? って思ったわけ。ポルシェはカッコいい。カッコいいクルマは速く走らなきゃダメ。そういう方程式みたいのが、あるんだ。AE86ってクルマ知ってるでしょ。一時期ハマってたことあってさ。ビッグバンパーって大人のハチロクになれるな、って直感したんだよね。だから今はポルシェ。最新型のオーナーも振り返るようなルックスに仕上げて、レースでも後塵を浴びせる、みたいなね。そういうのがカッコいいと思ってる。今はね」

 カッコよくありたいと思っているが、他人にどう思われるかということを意識しているワケではないという中井さん。けれども中井さんの男のものさしはとても繊細で、ふとしたきっかけ、つまり外的要因で刻みの幅がまだまだ変わっていくんだろうなと感じた。感覚が若いというのだろうか。もっとも死ぬまで刻みが変わり続ける男のものさしは、ある意味憧れでもあるが。

「そらそうですよ。2ndアンウィックラングなんて言ってるんですけどね。2番目の発展って意味です。1STはAE86で、今はポルシェ。3rdは何になって、いつ始まるんだろうね。そんなこと、オレにもわかんないや」

1/1のポルシェで楽しむ

そんな時間を共有したい

 中井さんがクルマに携わる仕事をはじめたのは、18歳。整備士の学校に通って、ヤナセに入庫してくるクルマを診る整備工場に入った。

「国産車は故障しないから、いろんな整備をするには輸入車をやってる工場がいいなと思ったんです。2級整備士の資格を取るのもいいよな、みたいな感じでね。その後でポルシェをメインでやってる鈑金塗装工場に就職して、クルマのカタチを作っていくのって面白いなぁって。今は鈑金塗装ばかりですよ。整備士の資格も持ってますけど、メカニズムに関しては自分よりももっと凄いヤツがいるんでね。ならば、自分は外装をばっちりキメてやろうって。

 最初にも言ったけど、ポルシェをカッコよくて速いクルマとして仕上げて楽しむことが今夢中になっていることだから、凹みキズを元のように直しておしまい、という修理は、あまり好きじゃないですね。元通りに復元するのはオレじゃなくてもできるだろうし、きっともっと上手い職人さんがいるんじゃないですか?

 ポルシェ純正の部品じゃなきゃ許せないっていう感覚の人よりも、仕上がりが勝負でしょ。ポルシェをブランドバッグみたいに身に付けていたい人は、ウチには向いてないですよ。ハンドル握って、目一杯走って楽しめるような人と、一緒に楽しみたいっていうのが、商売抜きの本音ですからね」

 ガキのころに1/24のプラモデルを山のように作ったんだ、と教えてくれた。

「それがね、今は1/1なんだよ! しかも自分が中に乗ってる!!」

 作業中に鉄粉が目に入って光が眩しいから、とかけていたサングラスを外して、真っ赤な目で笑いながら、そんなことを言っていた。

 自分の中にある2ndステージの価値観、がむしゃらに突き進んでいる中井さんなのである。


copyright / Munehisa Yamaguchi

    Car Sensor 2004  Vol.21掲載

 

ポルシェは大人のハチロク

   そういう楽しみ方が好き

カッコよく速いポルシェ創作の達人

      ラウヴェルト ベグリッフ/中井 啓さん


整備士の学校を卒業し、輸入車を整備する工場にメカニックとして就職。2級整備士の資格をとるが、外装関係の仕事に興味がわき、ポルシェを多く扱う鈑金塗装工場に転職。ドリフトレースの常勝ドライバーという経歴もあるので、その方面の競技が好きな人には知られた存在かもしれない。2年前に独立し、ポルシェにハマる36歳。


内容はすべて"CarSensor"誌に掲載時のものです。 2004 Vol.21掲載

Ph. Rei Hashimoto